発信を続けられない理由を、私はずっと「時間がないから」だと思っていました。実際に手が止まる場所を数えてみると、書く時間ではありませんでした。止まるのは、その前です。何を材料にするかが決まらない。現場から情報が上がってこない。素材集めが、いちばん重くていちばん地味な工程でした。
文章で出してくださいと頼むと、止まる
現場の人に「商品の説明を二百字ほど文章でください」と頼むと、たいてい返ってきません。さぼっているのではなく、書く作業そのものが重いのです。ふだんパソコンをほとんど触らない人もいれば、文章を書いたのは学生のとき以来という人もいます。忙しい日常の合間に、白い画面へ向かって二百字を埋めるのは、想像よりずっと大変です。
私は頼み方を変えました。「十分だけ時間をください。話を聞かせてください」に替えたのです。話すだけなら、相手は身構えません。同じ内容でも、書いてもらうのと話してもらうのとでは、返ってくる確率がまるで違いました。
写真や動画は、現場の人に撮ってもらうしかありません。そこは代わりが利かない。けれども言葉のほうは、こちらが聞きに行けば手に入ります。頼む相手にとって重い作業だけを、こちらが引き取る。社外の協力先に頼むときは、なおさらこの形が通ります。
聞き方は、対面か画面越しで
聞き取りは、顔を合わせるか、画面越しの通話で行います。電話は使いません。国によっては通話の録音そのものが認められておらず、端末の側で録音できないようになっているためです。手元の道具で確実に残せる形を選ぶほうが、あとで困りません。
話す前に、聞くことを三つか四つに絞って先に渡しておきます。何を作っているか、どこで手間がかかるか、お客さんに言われてうれしかったことは何か。この程度で十分です。相手は自分が毎日扱っているものについてなら、いくらでも詳しく話せます。
文字にする道具は、いま手元にあるもので足ります。通話をそのまま文字にしてくれる仕組みもあれば、手持ちの端末が話しながら書き取ってくれるものもある。私は両方を同じ場で動かして見比べたことがありますが、精度には差が出ました。どれを使うかより、まず一つに決めて毎回同じ手順で回すほうが、結果として速くなります。
話し言葉は、そのままでは記事にならない
録音を文字にすると、量に驚きます。ただし、その量はほとんど使えません。
私の手元で2026年8月20日に測った数字があります。二十三分ほどの語りを文字にすると1万2千字を超えました。それを記事の形に整えたら1,727字です。残ったのは、およそ七分の一でした。発話の数でいうと408回のうち、記事に痕跡が残ったのは124回だけ。別の日に、別の録音で測ったときも、残る割合はほぼ同じでした。
つまり、この工程でやっているのは要約ではなく、捨てる作業です。言い直し、相づち、脱線、その場でしか意味のない指示。これらを落とすと、言いたかったことだけが残ります。書くのが苦手だと感じている人ほど、この順番のほうが向いています。ゼロから書くのではなく、多すぎるものを削るのですから。
一つの素材を、いくつかの場所へ
削って残った文章は、まず一本の記事にします。記事にしてから、そこから短く切り出して他の場所へ回す。逆はうまくいきません。短い投稿を先に作ると、あとで記事に育てるときに骨組みが足りないからです。
一本の聞き取りから、記事が一本、短い投稿が数本。この歩留まりを前提にすると、月に何回の聞き取りが要るかが計算できます。感覚ではなく、数で段取りが組めるようになります。
続く形にしてから、量を考える
素材が集まる仕組みができていないうちに、投稿の本数だけを決めると、必ず途中で止まります。私も一度それで止めました。
先に決めるのは本数ではなく、誰にいつ話を聞くかです。月に二回、決まった相手に十分ずつ。これが回りだしてから、出す本数を決める。順番を逆にしないだけで、続き方がまるで変わりました。
書けないのではなく、材料がなかっただけ。そう考え直したところから、私のところは動き始めました。
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