小さな会社では、社長が自分で商談に出ることが珍しくありません。私も長いあいだ、商談は説明のうまさで決まるものだと思っていました。ところが、決まった案件と流れた案件を並べ直してみると、こちらがよく話した回ほど決まっていない。差がついていたのは話し方ではなく、順番でした。何を先に聞き、何を後から出すか。ここを決めておくだけで、扱う商品が同じでも結果が変わります。
初回に提案書を持っていかない
問い合わせや紹介から訪問の約束が取れると、資料を用意して持っていきたくなります。ここで仕上がった提案書を先に出すと、その時間は資料の説明会になります。相手は自分の困りごとを話す前に、こちらの商品を採るか採らないか判断する側に回ってしまう。
私は、初回は聞く日と決めています。提案書は、聞いた内容への返事として次に出す。「先日うかがったことに、こういう形で応えられます」という並びになると、相手は自分の話が形になったものとして読んでくれます。
相手が答えやすい形で聞く
聞き取りで大きな質問を投げると、相手は答えに詰まります。「何かお困りごとはありますか」と聞かれて、その場で整理して話せる人はまれです。
尋ね方を、いま目の前にあるものへ寄せると変わります。今の状態のどこが不便か、どの作業で手が止まるか。具体的な対象を指して聞くと、相手はすらすらと話し始めます。人は、自分がいま扱っているものについてなら、いくらでも詳しく話せるからです。
たとえば住まいの改修の相談であれば、「今のお住まいの間取りで、不便に感じているところを教えてください」と尋ねる。すると、水回りが二階にあって使いにくい、家族の足が弱ってきて階段の上り下りがつらい、だから浴室を一階に移したい——と、こちらが何も足さないうちに、要望が理由つきで出てきます。困りごとは、本人の生活の側から出てくると具体的になります。
このとき、手を動かして書き留めます。相手は、自分の話が記録されていると分かると、いいかげんに済ませなくなる。話が細かくなるのは、こちらが熱心にうなずいたからではなく、書いているからです。
帰る前に、聞いた内容を読み上げる
聞き取りが終わったら、その場で読み上げます。「一つめはこれ、二つめはこれ。全部で四つうかがいましたが、これで全部でしょうか」。
これだけのことですが、効き目が二つあります。ひとつは取りこぼしの発見で、読み上げると「そういえばもう一つ」と足されることがよくあります。もうひとつは、聞いてもらえたという相手の実感です。話しただけで終わった面談と、確認まで返ってきた面談とでは、次に会うときの温度が違います。
そして最後に、次の予定をその場で決めます。「この四つを解決する形にして、次回お持ちします」。次の約束が中身つきになるので、日程が流れにくくなります。
できないことも書いておく
提案でやりがちなのが、期待値を上げすぎることです。あれもできます、これもできますと並べたくなりますが、引き受ける範囲を超えて書くと、始まってから「話が違う」になります。
私が提案書で気をつけているのは、できないことを先に書くことです。対応しない範囲、こちらが用意するもの、相手に用意してもらうもの。この三つを分けて書いておくと、始まってからのやりとりが静かになります。決まる件数が少し減っても、続く件数は増えます。
入口は一つに絞らない
商談まで来てもらう入口は、いくつか並べておくほうが安定します。地域に配る紙の案内、知り合いへの声かけ、地域の商工団体や自治体の窓口への相談、取引のある金融機関の紹介制度。どれも単独では細いのですが、合わせると途切れにくくなります。
知り合いへの声かけは、相手に負担のない形で持ちかけると通ります。試してもらった感想を聞かせてもらう代わりに、こちらも相手の役に立つことを引き受ける。貸し借りの形にすると、頼むほうも頼まれるほうも気が楽です。
聞く、読み上げる、次を決める、書き分ける。この四つを順番どおりに置くだけで、話術を変えずに商談は進みます。次の一件から、初回に資料を出すのをやめてみてください。
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